退所してから

退所してから

卒業生Aさん

卒業生Aさん 4月にひこばえに入所しましたが、ゲームし放題、本読み放題、食べたいだけいつでも食べていた生活と「ひこばえ」とのギャップに耐えられず(おまけに大好きなペットとも暮らせなくなった)、1ヶ月もたたずに退所し、1年間『脱走生活』を送っていました。その間、結局楽しくなく、どこにいても苦しいんだと気が付き、戻ってきました。

「ひこばえ」に戻って間もない頃は『絶対に自分が正しい』という思いからスタッフやメンバーとぶつかってばかりいて、核爆弾のような発言を繰り返していました。
同時に家でやっていた世話役を「ひこばえ」でもやって、必要以上(周りの)面倒を見てしまっていました。そのことで自分が負いきれなくなってつぶれることも何度もありました。

それらのことで自分が苦しんでいることに気づいてから、とりあえずスタッフに言われた通りにやってみようと思い、行動を変えました。そうしたら周りの反応が変わって自分の苦しみが減ることが分かりました。

自分が正しくない場面もあることが分かったので、他の人の話をよく聞いてみました。次第に相手の言っていることもその人なりに正しくて、その中でちゃんと生きてたり苦しんでいたりするのが分かりました。そもそも自分よりも大変で、そして過激な人にはじめて出会いましたね。

(5年間の)最後の1年位は、自分がその場をなんとかしようと思うのではなく、その場を離れてスタッフに任せたり、少し待ってみたりできるようになっていて、良い距離を取ることができました。

現在は1日4時間、週5日間働き、アパートで一人暮らしをしています。(「ひこばえ」を退所してからの)一人暮らしの生活は素晴らしいです。
前とは違い、力が程よく抜けてあまり不安がありません。上司に指導や指摘を受けてもそれを最後まで聞くことができて、その通りにやろうとすることができます。

経済的には親の支援を受けていますが、仕事も始まったので、徐々に援助を受けている部分を減らし、返していきたいです。
近い目標としては猫が飼えるような広い部屋に住むことです。

Aさんの家族の声(母親)

ご家族以前は『私がこうなったのは(病気になったのは)親のせいだ』とばかり言っていて、私はそれも一理あるし申し訳ない気持ちでいました。
よかれと思ってやっていたことだったので、何がいけなかったのか、と自分を責めたりしていました。でも何かしようとは思っていて「ひこばえ」の利用を検討したのです。
一言で言うと「ひこばえ」に入って角が取れたという感じです。「ひこばえ」の中で自分よりも大変な境遇の人と接することができたのがよかったんだと思います。以前は本人から感謝することがほとんどなかったのですが、お互いに謝ったりお礼を言ったりできる関係になりました。以前は妹達にも強く言って支配・強要していましたが、今では気を遣えているみたいですね。

スタッフから

スタッフ【利用当初から終わりにかけてのスタッフの感じ方の変化】
新たな環境での彼女の生活に寄り添っていくことは、私たちにとってもチャレンジでした。はじめの頃は私たちも戸惑い、悩み、対応に苦慮することもたくさんあり、常に医療関係者(主治医やカウンセラー)と意見交換を重ねながら、彼女に対してどのように関わっていくことがよいのか考えつづけました。そして、彼女と何度も衝突しつつ関わっていく中で専門職やスタッフとして対応するだけでなく、彼女と同じ一人の “人として” 伝え合うことの重要性に気づいたのです。
スタッフも彼女と同じ人であり、傷つけられれば悲しむ・感情を一方的にぶつけられれば怒る・苦しくつらい時には耐えることもたくさんある、といった一般的な感覚を伝え共有していくことで、彼女自身も心を打解け素直な自分を表現するようになり、自分自身の問題点や課題に向き合うようになりました。

【彼女が特殊なのではない・彼女の努力が全て】
彼女は私たちスタッフや他の利用者と激しくぶつかり合った多くの卒業生のうちの一人です。皆さんにお伝えしたいのは、彼女は決して特殊な例ではないということと、同時に、彼女自身の非凡な努力なくしてはこの結果は起こり得なかったということです。

【スタッフが彼女から学ぶことも多くあった】
私たち専門職は、時に疾患名や障害の程度ばかりに目がいってしまうことがあります。そしてそのことを基準に対応を検討してしまいがちになります。 しかし、彼女も含めた多くの利用者と“生活”を通して関わる中で、病気や障害のみに重きを置くのでなく、その人の全人格に対し関わっていくことの大切さを改めて知りました。そして、“人は変わる”ことも感じました。

【これが私たちの喜びである】
そんな彼女が、今こうやって苦しみながらでも元気に社会で生きているということは、私たちスタッフの大きな喜びです。
「ひこばえ」を卒業した後の利用者の様子に触れると、私たちの仕事の意義や、責任の大きさを感じさせられます。また、卒業生からの電話やご家族の声、そして時折卒業生が「ひこばえ」に元気な顔を見せてくれることが私たちのエネルギーになり、原動力になっています。

このページのトップへ